2021/9/4 - 2021/9/23
終了しました「動物たちの家」奥山淳志写真展
『動物たちの家』のこと
昨年のちょうど今頃だろうか。遠い記憶の奥底に手を伸ばすようにして文章を書きはじめた。主な内容は子供の頃に飼っていた犬、鳩、ハムスター、インコといった動物たちについてで、いわば「動物たちとの日々」とでも呼ぶべきものだった。
書いていてずっと頭にあったのは、動物たちに向かう感情の源と行方だ。ふかふかな毛並みや羽毛に包まれ、きらきらと光る瞳を持った小さな動物たちは、存在すべてが奇跡そのものだ。なぜ、この手で抱きしめたいのか、存在のすべてを求めるのか、言葉が生まれる前に惹き寄せられていく。それは一瞬にして心を奪われるような感覚に近い。
しかし、そうやって抱き寄せた動物たちとの日々はやがて終わる。動物たちがいつか去っていくのは絶対の約束だし、この約束が守り遂げられる前に僕たち自身が動物たちから遠ざかっていくこともある。人間にとって動物という存在は忘れ物になっていくこともある。実際、僕自身もそうで多くの動物たちをぞんざいに扱った。
でも動物たちの全身から伝えられたぬくもりは、やがて目を覚ます。あの日、生きていた動物たちの存在感は、火種のように小さくも強い炎を僕の胸の中で灯し続けてきたように思う。それは生命を持つもの、動物に触れた先でしか得ることができない感覚だと思う。
そして動物たちが灯す存在感は記憶のなかにだけあるものではない。ずっとつながっているとしか、あるいは今も求め続けているとしか言いようがないのだが、僕の日々には常に動物たちの存在があって、過去に覚えたあの感覚が新しい息吹をまとい続けているという実感がある。動物たちとの新しい過去と懐かしい現在。そこに見出したかったのは、生命持つものの存在の行方だったような気がする。
あの日、僕の腕の中から去っていった動物たちや新たに出会った動物たちのことを今の僕が思い起こし、『動物たちの家』という名で書き綴ったものは、そういうものだった。
2021年7月28日 奥山淳志
□展示内容
『動物たちの家』に収録している写真を中心に未収録作品を加えて展示。
※作家の暗室で制作された発色現像方式印画によるオリジナル・プリント約20点展示予定。
※展示期間中に『動物たちの家』をお買い上げの方には、特典として作家制作によるオリジナルフォトカード3種をプレゼントいたします。
□9月4日(土)20時よりトーク配信が決まりました。
奥山淳志写真展「動物たちの家」の特別企画として、9月4日(土)20時からトークの生配信を行います。当日はこちらのYouTubeのサイトから、どなたでもご視聴いただけます。大体1時間程度を予定しております。ぜひご覧くださいませ。
*9月5日、アーカイブ視聴が可能になりました→ https://www.youtube.com/watch?v=0WUpJ7JR59U
- 奥山淳志(おくやま・あつし)
1972年大阪生まれ、奈良育ち。京都外国語大学卒業後、東京の出版社に勤務。1998年岩手県雫石町に移住し、写真家として活動を開始。以後、東北の風土や文化を撮影し、書籍や雑誌等で発表するほか、人間の生きることをテーマにした作品制作をおこなう。2006年「Country Songs ここで生きている」でフォトドキュメンタリー「NIPPON」2006選出、2015年「あたらしい糸に」で第40回伊奈信男賞、2018年写真集『弁造 Benzo』で日本写真協会賞 新人賞、2019年写真集『弁造 Benzo』および写真展「庭とエスキース」で写真の町東川賞 特別作家賞を受賞。主な著書に『手のひらの仕事』(岩手日報社、2004)、『とうほく旅街道』(河北新報出版センター、2012)、『庭とエスキース』(みすず書房、2019)などがある。
- 開催日
- 2021年9月4日(土)ー 2021年9月23日(木)
- 時間
- 12:00 - 19:30(日曜日は19時まで) 水曜・第三火曜日定休
- 会場
Title2階ギャラリー